「スマホのバッテリー交換義務化」がユーザーにデメリットをもたらす理由
8月20日IT media Mobileによると、欧州では、スマートフォンのバッテリーをユーザーが交換可能にすることを義務化する。日本ではバッテリーを交換できる機種は少ない。写真は2019年発売の「TORQUE G04」
EU(欧州連合)は、スマートフォンなどに対する新たな規制として、「バッテリーを簡単に交換できる設計とすること」を可決した。これにより2027年までに同地域向けに出荷されるスマートフォンにはバッテリー交換が容易に行えることが義務化される。今回はその影響を解説したい。
スマートフォンのバッテリー交換が簡単でない理由
そもそもなぜユーザーが簡単にバッテリーを交換できないスマートフォンが大半なのか。近年のスマートフォンにおいてバッテリー交換ができなくなっている背景には「技術的な進歩」「安全性や品質の確保」「不適切な修理の防止」がある。これに対して「バッテリー性能を上げても、交換不能にする必要はなかったのでは?」と考える人もいるだろう。このあたりについても説明しよう。 技術的な進歩から見ていくと、スマートフォンの性能向上に伴ってバッテリー容量の増加は急務となっていた。その一方で、バッテリー容量を増加させると電池パックも大型化し、当時のトレンドであった「薄型化」を達成することは難しかった。
そのため、メーカーとしては樹脂製の保護部を排除してバッテリーそのものを薄型化し、その分の容積を電池容量に割り当てることで大容量化を行った。近年の5000mAhを超える容量のバッテリーをあのサイズに抑え込むには、この方法が最も効率的だったのだ。 これらの方法によってバッテリーの大容量化が行われた結果、近年の高性能なスマートフォンが生まれたのだ。それと引き換えにバッテリー交換はできなくなったものの、利便性の低下分は急速充電技術の進化で対応した。防水性能についても、バッテリーの接続端子や各種電源系統でのショートを防ぐ意味もあり、利便性を高める方向で採用が進んでいる。
安全上の懸念は「非正規のバッテリー」が使用される恐れがあることだ。一般的にメーカー純正バッテリーは各種検証の他、近年では急速充電しても劣化しにくいといった最新技術が投入されている。破損対策も行われているため高コストになっている。 特にバッテリーに強い衝撃がかかることで、内部構造が破損しショートしてしまう「内部短絡」への対策は強固に行われている。この対策として、バッテリーのセパレータ素材を工夫し、剛性を高めている。また、万一発熱しても「熱暴走による発火」という最悪の事態を回避するための対策も施されている。近年のスマホのバッテリーが強力な粘着テープなどで固定される背景も、落下などの衝撃による内部短絡を防ぐためだ。
こうした対策が行われて純正品が高価になると、付け入るように安価な非正規品も多く出回ってくる。粗悪品は論外として、非正規品は安価ゆえに正規品のような「パーツレベルの事故対策」が行われていないことが多い。また、近年では独自の急速充電を備える機種も増えており、このような機種で非正規品を利用した場合は過充電や異常発熱の原因にもなる。 「不適切な修理」もメーカーとしては悩ましい問題となっている。iPhoneなどの世界的にシェアの大きいスマートフォンでは誤った手順による修理や「DIY修理」と評される十分な知識を持たない素人の修理によって、製品の品質や安全性が著しく阻害される側面もある。近年ではYouTubeなどの動画サイトでも修理手順動画がアップロードされていること、ネット通販で各種パーツを購入できることから、以前に比べて修理する方法を知る術が増えている。
問題は修理後の話だ。特に防水性能は品質面でも担保することが難しく、プロの専門業者に修理依頼しても一度本体を開封する関係で「新品のような防水性能は保証できない」としている例もある。修理のプロがこのような見解を示している以上、素人の修理が品質を担保できるとは思えない。そして、これらの不適切な修理をされた商品が中古などで出回ることも考えられる。購入者がこの情報を知らなければ、思わぬところで事故の原因にもなってしまうのだ。
このような観点から、管理外で品質の劣るバッテリーが利用される可能性、知識を持たない素人が介入することをメーカーは排除したいのだ。発火事故などによる製品やブランドのイメージ低下を考えると、メーカー側のメリットはない。このため、品質確保や安全性の向上を目的として、スマートフォンのバッテリー交換はできなくなっているのだ。 欧州の規制によって「バッテリー交換できる仕様」となることから、バッテリーについては上記のような品質面の問題をクリアできる可能性がある。バッテリー交換については不適切な修理はなくなる可能性があるものの、非正規品のバッテリーによる事故などの懸念は避けられない。
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